これからは少し私が所属していた横浜市立大学医学部での生活についてお話したいと思います。医学部の学生はお医者さんになるために必ず人体解剖実習を勉強しなければなりません。
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2年生の1学期の4か月間、午後のすべてを使って勉強します。私はその指導をしていたのですが、人体解剖実習は献体してくださる方々のお気持ちの上に成り立っています。
話によると、かつては行き倒れの方のお体を使わせていただくこともあったそうですが、今はすべて献体によって行われています。献体するためには、横浜市大の場合、有美会という献体希望者の団体があり、そこに所属していただくことが必要です。
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会員の中で亡くなられた方がいると、葬儀の後、担当のものがお迎えに上がり、防腐剤処置をした後、解剖実習で使わせていただくことになります。献体希望者の中には、大病を克服されて、医学のために役に立ちたいという方もおられます。
学生をはじめ、教員も献体される方々のお気持ちに思いをはせることを忘れることは許されません。解剖実習はそれこそ頭の先からつま先まで毎日毎日少しずつ着実に進められていきます。学生は最初、とても緊張するようですが、次第に慣れてはいくようです。しかし、毎日実習はご遺体への黙とうに始まり黙とうに終わります。ご遺体の尊厳を傷つけるような行為は絶対に許されません。そんな中で学生たちは黙々と解剖に打ち込んでいきます。
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夏、解剖実習が終了すると仕事を終えられたご遺体は荼毘にふされ、ずっとこの日を待っておられたご家族のもとへと返還されます。医学生たちにとってこの実習の持つ意味は非常に重大なものが有ります。医者になるための精神的な心構えを得ること、具体的に体のことを覚えることもそうですが、それ以外の必要欠くべからざるものもあります。次回はそのあたりのことを書きたいと思います。
今月のお花
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閑居博士のひとりごと。 第二回
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